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2024.08.05

コラム

【寄稿】理想的な“かかりつけ医”とは?

「理想的な“かかりつけ医”とは?」という質問を受けることがある。個人的に教えてほしい、ということもあれば、そのテーマで原稿を書けと言われることもある。ただ、この話題が取り上げられる機会が増えていることは確かなので、かかりつけ医選びで苦労している人は少なくないようだ。

そもそもいまの日本では「かかりつけ医」の定義はあいまいで、何となくいつもかかっている診療所の医師、大規模病院に行くときに紹介状を書いてもらうクリニックの医師――といった位置付けで捉えられている。

村に一軒だけの診療所の先生は間違いなくその村の人たちにとってかかりつけ医だが、クリニックビルが林立する大都市では、症状ごとにかかる医師も異なるので、どの医師がかかりつけ医なのかが分かりづらい。

そうしたことを前提として、冒頭の質問を受けたときの私の回答は、その時の気分にもよるが次のようなものになる。

自宅や職場から遠くない、自分より若い、わからないことは正直に「わからない」と言ってくれる、そして何より、相性が合うこと――。

どんなに名医でも片道に何時間もかかるような長距離では通いきれない。

生涯を通じて付き合うなら、自分より長く生きる、つまり年下の医師でなければならない。

わからないのに知ったかぶりされるのは医療事故の温床になる。わからないときは正直に「わからない」と言って、わかる医師を探して紹介してくれる医師こそ本当の良医である。

そして何より「相性が合う」ことは、長く付き合う上で最も重要な要因だ。医師と患者とはいえ、所詮は人間同士。そこに相性は必ず存在する。

医療記者として多くの医師を取材してきたが、その中には仕事を超えて仲良くなった医師もいれば、二度と会うことはないだろうという医者もいる。後者の場合、そこに「相性の悪さ」が少なからず存在し、必ずしも医師が悪いわけではない。

冒頭の質問を受けた際、私は必ずこう答える。

「相性が悪いと思ったら、躊躇せず医師を変えるべきだ」と。

これは患者のためを思っての発言にも見えるが、じつは医師のことを慮ってのことなのだ。

相性が合わないとき、患者は簡単に医師を変えられるが、医師にその権限はない。相性の合わない患者が受診すると、嫌でも診察をしなければならない。そんな患者が増えれば増えるほど、医師のストレスは増大する。

医師の働き方改革もいいが、その前に医師のストレス軽減のために、かかりつけ医の定義を明文化し、そこに「相性」の問題を盛り込んでほしいと思う。

まあ無理だろうが……。


執筆者:長田 昭二(おさだ しょうじ)
ジャーナリスト。1965年、東京都生まれ。日本大学農獣医学部卒業。新聞社、出版社勤務を経て、2000年からフリー。「文藝春秋」「週刊文春」「文春オンライン」「夕刊フジ」「PHPからだスマイル」などで医療記事を中心に執筆。日本医学ジャーナリスト協会会員。

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